Economist / The Intelligence 亡命希望者に対する英国の新たな政策「ルワンダ送還」

タイトル(原題):Rwanda-on-Thames: Britain’s asylum proposal

日付:Mon, 4/25, 2022

著者 :Economist The Intelligence 

訳者 :Sungwon Kim

概要: BRITAIN’S GOVERNMENT has proposed sending asylum-seekers to Rwanda: www.economist.com/leaders/2022/04/…fugee-convention. The plan has been widely criticised as expensive and ineffective—but the greater danger is that the plan works. 

英国政府は亡命希望者をルワンダへ送還する政策を発表。その予算規模と非実効性から、広い批判の的となっている。しかしそこにはこの政策が機能しかねない危うい実情がある。The Intelligence ポッドキャスト司会者が社会政策担当エデイターのJoel Budへインタビューした内容を以下に翻訳文面として記載する。日本から国際移動のトレンドをキャッチアップして行くために。


司会 00:21

さて今月、英国保守党政府は、政治の力によるかなり物議をかもす新たな難民施策を発表、推し進めようとしています。

Priti Patel(英国内務大臣プリティパテル) 01:28

「この新たなルワンダとのパートナーシップにより、ドーバー海峡を渡るボートピープル、また違法かつ危険なルートで英国に渡った人々は、まずルワンダに移される。そしてその後、亡命申請について検討される運びになります。」

司会 01:41

内務大臣であるPriti Patelが打ち出した計画は、とてもストレートな政策です。不法入国を試みた場合、あなたがどこから来たかにかかわらず、6,500キロメートル離れたルワンダに送られるというもの。反対意見はあらゆる方面から噴出したが、予想通り労働党党首Kier Starmerは以下のように反発した。

Kier Starmer(英国労働党党首キアー・スターマー) 02:00

「これは実行不可能であり、強引。この施作を実施した場合、納税者に何十億ポンドも負担を強いることになります。とにかく、ひどい政策だ。」

司会 02:09

カンタベリー大主教は、この政策は「神の審判を受けるに値しない」と述べた。さらには、保守党党内からも批判があるほど。元首相のTheresa Mayは以下のように述べた。

Theresa May(英国元首相テレーザ・メイ) 02:19

「法的な観点、実用性の観点、そしてこれが有効に働かないのではという懸念から、ルワンダ送還のこの政策を支持しません。」

司会 02:26

この計画がうまくいかないであろう様々な憶測に注目が集まっているが、それよりなにより最も大きな懸念は、この政策が英国で実施された場合の、ルワンダやそれ以外の国への影響だ。Economist誌の社会政策エディターのJoel Budは以下のように述べる。

Joel Bud(エコノミスト誌の社会政策エディター。以下省略) 02:40

これは大きな一歩です。英国政府は長年、亡命者を歓迎しない政策をいろいろと実施してきました。亡命(難民)申請者に対して適用される週あたりの補助金をカットしたり、彼らが一定期間英国国内で労働することも禁止してきました。さらには、難民申請が完全に認められるまで何ヶ月間も待たなければならない状況をあえてそのままにしていました。そんな中発表されたこの政策は、それまでの規模とは異なる全く新しいものです。

司会 03:04

Joelさん、もう少し詳しく説明してください。この政策はいつから実施されるのでしょう?またプラン自体は、どのようなものなのですか?

Joel Bud

議会で有効化法が可決されてからの発効になりすが、現在、それが議論されているところです。しかしわたしは、数ヶ月の間に可決されると見ています。そのまま進めば、ルワンダへの難民送還は早い時期から開始されることになります。ダウニングストリート(内閣)の人々は、数週間以内に開始することができると話しているようですが、法的な問題がいくつかあるためその可能性はかなり低いと見ています。

司会

このプランの背景や提案された理由は何でしょうか?なぜこのようなことをするのでしょう?

Joel Bud 03:38

「表向きの根拠」と「現実的な根拠」の二つがあります。前者としては、亡命希望者がブローカー(密入国斡旋業者)の手によりボロ小舟で英国へ海峡を渡ってくるという危険な行為を望ましくないと思っているからです。ブローカーという犯罪者にお金が渡り、一方で人々は溺れていく。そんな危険な犯罪システムをそのまま稼働させるわけにはいきません。後者としては、より現実的な読みですが、人々が亡命への長旅に出ることを少しでも多く防ぐため抑止するため(その結果ルワンダに送還されるという事実を置くことで)と、見ています。

司会 04:21

このようなアプローチは他の国でも採用されているのでしょうか?

Joel Bud 04:23

はい、あります。コロナのパンデミックは発生した後、アメリカは疾患管理センター(Centers for Disease Control)の指導のもと、南部の国境で感染リスクがあるという理由から人々を押し返し始めました。

また、EUはここ数年、トルコからギリシャに渡ったシリア人をトルコに送り返すのではなく、EU域内のギリシャに移しました。これにより、いまトルコには多くの亡命希望者が止まっていることになります。(※1 ギリシャに移されるという理由からEU行きを断念する人が多いという意味か)

デンマークは実はルワンダと昨年協定を結んでいますが、これもまだ概念のみといった形です。とにかく新しい枠組みなのです。なにせ、どこからきたかに関係なく、亡命希望者を6,500キロも離れた場所へ送還するという施作なのですから。

司会 05:10

なぜ、英国やデンマークはルワンダを選んだのでしょう?また、ルワンダは何を得ることができるのでしょう?

Joel Bud 05:15

ルワンダは、お金を得るだけでなく、周囲から敬われ、さらには批判から逃れることができます。ルワンダは少し変わった独裁政治が行われている国家と言えるでしょう。ルワンダの警察は、人を殴ったりするような強行的な独裁政権ではないのですが、普通の人々は政府のことを悪く言ったり批判したりすることができない状況になっているのです。ルワンダの人々に政治のことを聞くと、こわばった表情になる。とても不思議な状況なのです。ですから、英国の立場からすれば、人権問題の義務行使の是非を問うことなく、この政策ができるという利点があるのです。(※2 原文:So this deal means in effect that Britain has to stop asking whether a wonder is, you know, sticking to kind of human rights obligations)

司会 06:09

この政策は多くの批判にさらされていますね?

Joel Bud 06:12

はい、批判を受けています。しかし、その批判はちょっと奇妙なものなんです。よくある批判のひとつはとにかく「お金(予算)がかる」というものです。もうひとつは、「うまくいかない」というものです。とにかくそんなに多くの人々をルワンダまで送還するなんて現実的にむりだろう、だから亡命希望者の数を減らすための抑止力にはなり得ないということです。私は、これらいずれの批判もあまり適切ではないと思います。

まず、コストがかかる亡命希望者への制度を整えることは望ましいことなのでは?と思うからです。健全な制度設計は安価であるべきだ、なんてことはないと思うのです。

さらに言うと。もし、これでルワンダに送られる人の数が減った場合。もっと心配なのは、これが実際に抑止力として有効であると証明されてしまう可能性です。デンマークはすでにルワンダと交渉を始め、デンマークに到着した亡命希望者を送り返すと発表しています。(英国と同じスキーム)英国が多くの亡命希望者送還に成功すれば、つまり、年間1,000人規模の亡命希望者をルワンダへ送り込むことができれば、それを見たひとびとは英国を目指さなくなるでしょう。そして別の国に行くことを考えるかもしれない。ただ、別の国は英国の例を見て、同じような政策に出ていくという連鎖反応が起こるかもしれない。

司会 07:33

Joel、もし他の国々(先進国)が同じことを始めた場合、どんなリスクがあるのでしょうか?

Joel Bud 07:38

そのリスクは、一種の「模倣犯的な」連鎖反応にあるのではないかと思います。豊かな国々が、お金で問題を解決し、亡命者の申し立てを聞かないような状況が連鎖的に生まれていくということです。そうなると、亡命者を受け入れることが最も可能な国々が、結局は受け入れの数が最も少ないという世界になっていくことを意味します。実はすでに先進国は多くの場合において、貧しい国よりも難民んの受け入れ数が少ないのです。トルコ、ケニア、バングラデシュなど、多くの難民を受け入れている国々は、飢餓などの問題で苦しむ難民を多く受け入れています。もし、英国を追随して多くの先進国がこの政策を導入していくと「難民を受け入れる余裕のない国に、多くの難民がいる」という、ある種の異常な、極端な状態に陥ってしまうことが予想されます。

司会 08:36

国境を管理しつつ、安全な場所を必要とする人々へバランスのとれた思いやりを実現するのは容易ではありませんね。この政策はちょっと置いといて、ジョンソン政権は広い意味で間違った方向へ行っていると思いますか?

Joel Bud 08:47

(国境管理は)非常に困難です。英国政府は、本当に達成したいことを明確にして、正直な対応をしていく必要があります。もし、海峡で死者が出るのを防ぎ、海峡の混乱を防ぎたいのであれば。そのためには、実はとても簡単な方法があるのです。その簡単な方法とは、海峡を渡る前のフランス北部において、亡命希望者が亡命申請できるようにすることです。イギリスはフランスの領土に国境を移動させることになりますが、フランスはこれに賛成しています。北フランスから英国への亡命申請をできるようにする。そうなると、基本的に誰も、もうボロ船でリスクを犯して海峡を渡ろうとはしなくなる。あるいは、英国が人道的ビザを発行し、亡命するためにイギリスへ来ることを許可し、フェリーに乗って1日かけて渡る。安く済むし、ずっと安全なのではないか・・・

司会 09:53

Joelさん、本日はありがとうございました。

Joel Bud 09:55

ありがとうございました。


※本文章は著作権・翻訳権クリアランスは完了しておらず、あくまで私的利用範囲でのみ閲覧できるようになっています。

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